死のうと思っていた。
ことしの正月、よそから着物を一反もらった。
お年玉としてである。着物の布地は麻であった。
鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。
これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。
太宰治『葉』冒頭より
太宰治の晩年に書かれている『葉』は、小説のために書き溜めた草稿から、小説になり切れなかった一片の言葉たちを綴っているのでしょう。
自分は独りだ。独りで酒を飲み、独りで酔い、独りで寝る。そして独りで生きていくのだ。
生きる理由がない
生きる意味がない
生きていても迷惑を掛けるだけだ
死んだほうがマシ
死んだ方がよい
死ぬしかない
そんな、憂鬱に駆られ、センチメンタルに浸ってしまう時は、浴衣を見てみるといい。着てみるといい。
浴衣を着ると、誰かに会ってみたくなる。
浴衣を着ると、誰かに見せたくなる。
浴衣を着ると、自分が大切なものだと思える。
浴衣は教えてくれる。あなたが独りではないことを。
そんな気がする。
神崎ゆう